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リノベーション―建物再生
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:: 上野桜木「市田邸」


東京芸術大学にほど近い上野桜木は、古い屋敷が点在する住宅街。この一画に残る築約100年の日本家屋で、芸大の4人の学生が共同生活を営んでいる。持ち主の名を引き継ぎ、「市田邸」と呼ばれるこの建物は、明治後期に建てられた広さ約100坪ほどの一軒家。芸大生の下宿として使われていたが、家主が転居した後、10年近く空き家となっていた。

発端は、古い建物の保存運動だった。現在「市田邸」に住む同大大学院助手の中村文美さんは、谷中・上野桜木の歴史的建築物の保存運動に関わるなかで、住み主を失い傷みはじめていた「市田邸」の存在を知る。建築物の保存・修復を学びながら、それまで古い建物に住んだ経験のなかった中村さんは、多くの人に古い木造の家の良さを伝えていくためには、自分がまずそれを知っていなければならないと考えていた。ならば、自らが住むことで、この家を残していくことができないか。

こうした熱意がきっかけとなって、2001年3月、「たいとう歴史都市研究会(代表・前野まさる東京芸術大学名誉教授)」が発足。住み手とともに「市田邸」の修復と保存活用の仕組みづくりを支援していく組織である。話し合いを重ねるうちに市田氏の理解と協力も得られ、5年間の借用契約が交わされた。その後、地元の大工さんなどに依頼して、屋根の修繕や柱のゆがみの修正など必要最低限の改修が行われ、「市田邸」での暮らしがはじまった。

「市田邸」の修復を機に設立された「たいとう歴史都市研究会」は、その後もこの家の良さを知ってもらおうと定期的に演奏会などのイベントを行っているほか、さらに周辺の古い家を残していくための仕組みづくりを続けている。今年、同研究会の2軒目の試みとして、大正期築の旧商店を改修し3グループでシェアする「間間間(さんげんま)」がオープン。また閉鎖された「茨城県会館」の再利用計画の検討も進んでいる。

事務局を務める同大非常勤講師の椎原晶子さんによると、古い家を維持していくためには、住み手、情報、資金がうまくまわる仕組みが大切だという。確かに、古い家の維持管理は手間が掛かかる。高齢者にとっては負担が大きく、若い人にとっては手入れの知識が必要だ。伝統的な木の住まいの良さを伝えていくために必要なのは、ただの不動産仲介にとどまらず、家主と下宿人、若い人と職人さんのあいだの橋渡しをコーディネイトすることである。こうした活動を通じて、日本の風土のなかで育まれた木の住まいの暮らしやすさを、もっと多くの人に知ってもらいたいという。

「市田邸」で暮らしはじめた中村さんは、そんな古い家の住み心地を実感している。庭の手入れや床みがきなど、建物の面倒を見るのは大変だ。しかし日本家屋は、工夫次第で夏の暑さも冬の寒さもしのげることがわかった。雨の音や日の光の変化など季節の移り変わりにも敏感になったという。

中村さんは最後に、この家で生まれ育ち、長年に渡って下宿を取り仕切っていた市田春子さんが、亡くなる前に再訪された時のことを語ってくれた。「きれいだねぇ、ありがとう」、そう声を掛けられた時、初対面にもかかわらず他人とは思えない感情がこみ上げてきたという。

会話が途切れると、芸大の構内から学生の楽器を演奏する音が漂ってくる。おそらくこの家が、数十年間変わらず聞き続けてきた音。下宿からシェアハウスへ変貌を遂げた「市田邸」だが、名前や建物以上のものが引き継がれている。建物の修復・保存だけでなく、その場で営まれていた生活を現代に活かす仕組みを作っていくこと。谷中の歴史と暮らしを受け継ぎ、木の住まいを「住み継ぐ」という「たいとう歴史都市研究会」の想いを、垣間見ることができたように思う。






たいとう歴史都市研究会
[ http://www2.yanesen.net/yanakagakko/projects/kinosumai.htm ]


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